書評『熟達論:人はいつまでも学び、成長できる』

為末大さんの「熟達論:人はいつまでも学び、成長できる」についてお伝えします。


為末さんは400mハードル日本記録保持者であり、走る哲学者として数々の著書を世に出し、経営者としても活躍されている方です。私も過去にセミナーやTwitterでの投稿を拝見させていただく中で、もやもやした事象を鋭い角度から美しく言語化をされる方という印象があります。

そんな為末さんの現代の「五輪書」とも言える、熟達への道のりがぎゅっと詰まっています。成長意欲のあるすべての人に寄り添う一冊と思い今回ピックアップしました。

本書の中では熟達の定義を「人間総体としての探求であり技能と自分が影響しあい相互に高まること」としています。

つまり単純に技能を高めるだけではなく、自分も変化させることが大切と説いています。
そしてそのためには、5つのStepがあります。

  • 遊 不規則さを身に着ける
  • 型 無意識にできるようになる
  • 観 部分、関係、構造が分かる
  • 心 中心をつかみ自在になる
  • 空 我を忘れる

公園での遊びが大切

最初は遊びです。

野球でいうところの子どもが公園で思いっきり体を動かすようなイメージです。

良く分からないけど思いっきり投げて、良くわからないまま思いっきりバットを振るような状態です。誰に言われることもなく、ただ楽しくて、うまくいったりいかなかったりを繰り返している状態を指します。

ひたすら繰り返す時間

2つ目は型を身に着ける段階です。

素振りはこれに当たります。あまり面白いとは言えませんが、ひたすら同じ動作を繰り返すことで、無意識にその動作ができるようになってきます。

構造化

3つ目は観るです。

型が身につくと、細部にまで意識が向けるようになり、バットを振る時にどの関節が曲がってどの部位に力が伝わっていくかが分かるようになります。ここまでくると、全体の構造が見えきます。

重心はどこか?

4つ目は心です。

構造が見えていると、中心をつかむことができ、自然体でいられるようになります。

自然体とは必要な部分のみ力を入れ、その他は脱力している状態を指しています。

この状態を手に入れることでスピーディに変化に対応できます。プロのバッターがゆったりと脱力して構えているように見えて、ボールがきた瞬間にすごいスピードでスイングができるのは、中心をおさえているからとも言えます。

ゾーンに入る

そして最後5つ目は空、いわゆるゾーンの状態を指します。

ボールが止まって見える境地はまさにこの世界と言えます。

この状態に入るためには、自分の身体に自分を委ねられるかにかかっています。「空」を一度経験しても、この状態に入るスイッチを見つけることは難しいようです。

そしてまた、最終的には「遊」のStepに戻ることになります。

空の状態は正直目指すのは難しいと感じながら読んでいましたが、4つ目の心まではたどり着けると感じました。

順番を意識せよ

為末さんは各要素も大事だが、習得する順番が非常に大切であると言います。

遊びで全力で身体を動かすことを体験できていなければ、どれだけ型を身に着けても100%の力を発揮することができないのです。

オリンピック選手とその手前の選手との間で身体能力の差がないらしく、どれだけ本番で出し切るかにかかっていると言えます。

型から入るとずっと制御した状態になってしまうことから、いざという時に力を発揮できないようです。

型にも良い型と悪い型があるので見分ける必要があります。

■良い型の条件

  • シンプル
  • 過去に検証されてきた
  • 効果が期待されすぎていない


ビジネスに目を向けると3Cや4Pなど有名なビジネスフレームワークはこれらの条件を満たしているという意味で良い型ではありますが、最初にこれだけを学んで活用しても良い成果につながるわけではありません。

普段の仕事の場面で、自分なりに好奇心を持って色々試してもうまくいかなった後に、必要な型を身に着けるからこそ成果につながるのだと思います。

前のめりなアウトプットありきでインプットをすることが大切というメッセージと通ずるものを感じました。

構造をとらえ脱力することがビジネスで成果を生む

また、3つ目の観ると4つ目の心のセットもビジネスでも非常に生かせるポイントになると思っています。

例えば、ある営業担当者がとにかく自分の数字を上げるために、必要な説明をせずに商品を売ってしまい、後でコールセンターに苦情が入った場合は構造の理解と中心の理解が足りていないことが分かります。

観るのフェーズで全体のバリューチェーンのうち自分は今どこにいるのかを理解できていないまま、目の前のただ売るという行動を中心に据えたことで最終的には損をしています。そもそもの営業担当者としてのお客様を楽しませるという遊びの感覚や営業担当者としての基本の型も身についていなかったかもしれません。

若いうちはがむしゃらに働いて型を作るのもありだと思いますが、やはり年を重ねると会社や組織を構造化し、どの部分に力を入れるべきかを判断する力が必要になります。

目の前の仕事に忙殺されていると感じる人は、一度立ち止まって、今の組織の位置づけ、最も今力をいれるべきポイントはどこかを考えてもいいのかもしれません。

もちろん、あらためて自分は何が好きなのかを立ち止まって考えるいわゆる遊びのフェーズに戻るのも必要な営みだと思います。

まとめ

熟達するために「遊」「型」「観」「心」「空」のStepがありその順番が大切です。熟達への道のりは時間がかかり、終わりも見えません。

本書では、学びそのものが娯楽化するのが熟達への道と結びで書いています。

成長し続けるためのヒントになりますと幸いです。

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